開戦

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攻略メモ

サンド島周辺に侵入した不審船から射出された無人偵察機を帰投前に撃墜するのが当面の目的。無人機の動きは単純だが的は小さいので、バルカン砲での攻撃が無理ならミサイル一発で落としていこう。無人機を始末するといよいよ敵戦闘機群が出現する。最初に登場するのはMig-21bisなので比較的楽に落とせるが、次に登場するのはMig-29A。スピード・運動性能ともに自分のF-5Eを凌ぐ機体なので、うっかり背後を取られないようにしたほうが良い。とはいえ、まだ操作に慣れるためのミッション。ここでてこずるようでは、この先のミッションは厳しくなる。練習という意味でなら、何回かリトライして操作系統を体に覚えさせてしまっても良いだろう。

ミッション終了後、艦船から発射されたSAMによってハートブレイク1は墜落してしまう。その救出を見守る暇も無く、基地への帰還と再出撃を命じられてしまう。

登場敵機:Mig-21bis、Mig-29A


先の戦闘に関して緘口令がしかれて2日が過ぎた。司令部に出頭していたバートレット大尉は嫌味たっぷりに司令官殿の小言を数時間に渡って聞く羽目になったようであるが、些かの動揺も無い。出撃もないまま時間が過ぎていった。夕暮れ時のサンド島の景色は、オーシア連邦の百景に選ばれても遜色ないほどに美しい。海鳥たちがねぐらに戻るために編隊を組み、赤い夕焼けの空を渡っていく風景は思わずカメラを向けたくなる。もっとも、そのカメラ一式は司令部に取り上げられたままなので、ジュネットのカメラマンとしての欲求は大いに不満であった。

「戦闘のあったことを伏せようとするのは何者でしょうか?」

機体の整備と身体を動かす以外にやることがないので、彼と同じように機体ハンガー前で時間を潰していたバートレットに、核心をジュネットはついてみた。

「なあ、この海の向こうといえばユークはムルスカの航空基地しかないだろうが。おまえだって、その目でユークの気色悪いカラーリングを目にしたろう?」

「しかしユークトバニアは15年前戦争以来の友好国じゃないですか?」

そう、15年前戦争での悲劇の後、オーシアとユーク両大国は民間だけでなく政治レベルでも友好関係を保ってきている。タカ派の軍人や政治家たちは舞台から去り、彼らの有形無形の妨害を逐一葬ってきたから今日の平和があるのだ。ユークで政変があったわけでもない現状で、突然ユークが主戦派に取って代わるとは、ジュネットには信じられないことであった。

「ここで推測ばかりしていてもしかたないだろう。今頃、俺たち以上に必死になって事態の把握に務めている連中がいるさ。お互いのホットラインを最大限に活用してな。それに今この事実を公表してみろ。両国の何も知らない純粋な市民達がパニックになっちまうだろうが。」

バートレットの言うとおりだ。記者である自分ですら信じがたい事態を、一般の人間が信じることが出来るだろうか?しかし何かひっかかる。そもそも、先日の遭遇戦ですら宣戦布告もなしに行われた攻撃だ。そんな危険な判断を下すほど、ユークトバニアの軍上層部はイカれていなかったはずだが……。少し前に行われた両軍の士官交流会の際の取材に対するユーク士官の応対は、オーシア軍も見習うべきところが多かっただけに、ジュネットは余計に首を傾げざるを得なかった。考え込んでいるジュネットを横目に見ながら、バートレットはハンガーの壁に背中を預けた。

「無駄に混乱を拡大させず、秘密裏に事態を解決するのも政治の仕事っやつさ。……悪かったな、特ダネのネタ、差し押さえになっちまってよ。」

「いや、仕方ありませんよ。気にしないで下さい。」

「ふふ、そうか。」

夕焼けの空をまた別の鳥たちが飛んでいく。

「本当は、隊長が一番撃ちたくないんだよ、ジュネット」

ハンガーの中で機体整備をしていたおやじさんが、オイルをタオルで拭きながら歩いてきた。

「隊長には昔ユークトバニアに恋人がいたのさ。」

「本当ですか!?」

「ああ、そうだろ、隊長?」

そのときの、ちょっとほろ苦そうなバートレットの顔をジュネットはしばらくの間忘れることが出来なかった。もっとも、事の真相を確かめる機会を、彼はその後かなりの期間に渡って失ったのではあるが。

「なあに、ちょっと昔の、心の傷跡さ。何せ俺ゃ繊細だからよ。」

苦笑せざるを得ないのは、今度はジュネットの番であった。


スクランブル発進のない、安全な日々はあっけなく終わりを告げた。サンド島近海に、ユークトバニア所属と思われる情報収集艦が展開し、無人偵察機での偵察活動を開始したのだ。告げられた任務は、敵無人偵察機の撃墜。人間が乗っていないのがせめてもの救いということか。


情報収集艦の展開している海域は、基地のすぐ近海であった。まだ戦争状態にあるわけではないにしろ、大胆不敵な行動というべきものだろう。実際問題として、彼らの領海侵犯は明白なのだから。

「サンダーヘッドより、ウォードッグ。敵艦への攻撃は許可あるまで禁止する。無人偵察機の撃墜を優先せよ。」

「ああ、出たよ。ストーンヘッドが。今日も惚れちまいそうないい声だぜ。声だけな」

「既に作戦行動中だ。私語は慎むように」

「サンダーヘッド、こいつのは私語ではなく独り言みたいなもんだ。いちいち気にしているとおかしくなるぞ」

「……」

そうこうしているうちに、レーダーには無人偵察機の光点が出現している。情報収集艦目指し、最短のルートを選択しながら飛行している。そのため、直線での動きしかないので狙いやすい。

「ブービー、おまえさんの腕、見せてもらおうか」

ハートブレイク1が俺の右後背につく。どうやら全部落としてみろ、ということらしい。俺は親指を立てて了解の意志を示すと、まず最初の獲物に接近した。単調な動きのまま針路変更をしない無人偵察機をHUDにとらえ、そしてトリガーを引いた。耐久度の低い無人偵察機には、数発の弾丸で事足りる。軽く機体を横に滑らせて、並行して飛行する奴にもバルカン砲をお見舞いする。動力部に直撃したのか、部品を四方に弾き飛ばしながら吹き飛んでいく。

「なかなかいい腕だ。だが、まだ弾を使いすぎだ。ほら、次の奴が見えてきたぞ。」

少し離れたところでは、ナガセが偵察機を撃墜している。チョッパーはといえば、AAMを発射して一機を屠ったところだった。

「おしゃべり小僧!ミサイル一発いくらすると思っていやがる。おまえは今度の出撃ミサイルなしだ!」

「げえっ!まじかよ、隊長。それは勘弁だぜ!!」

チョッパーの愚痴を聞きながら何気なくレーダーに目を落とすと、光点が出現している。方位は280。新たな無人偵察機?いや、違う!

「サンダーヘッドより、ウォードッグ!またお客さんのお出ましだ。」

「おい、まさかまた方位280か!」

「そうだ、ハートブレイク1。接触まであと1分。」

「聞いての通りだ、ひよっ子たち。尻尾を巻いて逃げるとするぞ」

隊長機は急旋回して反対方向へと逃走を開始する。すかさず俺たちも後に続き、全力で逃げにかかる。眼下には侵入してきた敵艦が通り過ぎていくのが見える。だが、全速にもかかわらず敵は確実に近づいてきていた。特に最後尾にいるチョッパーは、もう少しで敵の射程距離内に入りつつあった。

「何だか俺ばかり狙われているような気がするぞ。ってうわぁぁぁぁ、またレーダーロック!」

「火の粉は自分で払え、チョッパー。それとも手伝いが必要か?」

「こりゃ無理だ、逃げ切れない、どう考えても相手の方が早い!」

「……というわけだ。聞こえたな、ひよっ子ども。ぼさっとしていないで、反転して奴が火の粉を払うのを手伝ってやれ!」

「隊長、それは交戦許可、と受け取ってよいですね」

「その通りだ、エッジ、ブービー。かかれ!」

チョッパーは4機のMig-21bisに追い回され、急上昇と急降下を繰り返している。もう手の震えは無い。俺はレーダーロックを最後尾の1機にかける。チョッパーを追い回すのに躍起になっているのか、背中ががらあきだ。HUDのマーカーの色が反転し、ロックをしたことを告げるブザーが鳴り響く。この音も、いくらか心地よくなってきていた。軽い衝撃と共に翼から放たれたAAMが、獲物の後背に襲い掛かる。

「マイティ3、後ろ、ミサイルだ。回避しろ!!」

「だめだ、逃げられない……!」

無線が混信し、敵の会話が聞こえてきた。悲鳴は今自分が仕留めた敵のものだろう。機体後部を吹き飛ばされたミグのキャノピーが跳ね上がり、空にパラシュートの花が咲く。次だ!

「ブレイズ、援護します」

エッジ機と並び、バルカン砲をお見舞いする。無数の砲弾にミンチにされた敵機がばらばらになりながら海へと落ちていく。チョッパーはといえば、さっきまでのお返しとばかり敵機を追い掛け回している。

「交戦許可もないのに発砲だと!?一体何を考えている、ウォードッグ」

「ストーンヘッド。俺はもうこれ以上部下を失うわけにはいかないんだよ。安全な高いところにいる奴が余計な口叩くんじゃねぇ。」

「……!新手が接近、方位、やはり280!!」

「今度はさっきのよりも上等な奴らが来やがった!」

接近してきたのはMig-29Aファルクラム。正直機体性能では雲泥の差があるが……。急上昇し、相手にかぶるように俺は襲いかかった。無理にこっちに対応しようとした奴が、一瞬ストールを起こしかけて速度が鈍る。その瞬間を狙い、バルカン砲を叩き込む。機首を滅茶苦茶にされた敵機は、コントロールを失って虚空を彷徨い始める。

「チョッパー、後ろだ!また張り付かれている!!」

「分かっているぜブービー、俺の華麗な技、見せてやるぜ!!」

チョッパーは機体を急減速させ、相手をオーバーシュートさせる。その後背へ、AAMが2本突き刺さる。爆炎とともに機体は四散し、海へと散らばっていく。

「おい、こいつら一体なんだ!?何でこんな連中にここまでやられるんだ!?」

「おまえさんたちの腕が悪いんだよ」

最後に残った一機は、上に回りこんだハートブレイク1の攻撃で敢え無く撃墜された。空にはまた静寂が戻ろうとしていた。


「全機撃墜、やりましたね。」

どことなくほっとしたナガセの声。全く同感だった。今やこの区域には、まだ攻撃許可の下りていない敵の情報収集艦と俺らがいるだけとなっていた。

「気を抜くな。まだ警戒が解除されていない!気をつけろ!!」

一瞬の油断を突いて、敵艦からSAMが発射された。白く伸びる排気煙は、最も近くにいたナガセの機体に狙いを定める。

「ナガセ、逃げろ!!」

慌てて彼女の機体を追いかけるが、追いかけたところでどうにかなるわけでもない。

「くっ……うぅぅぅぅ。」

急旋回による高Gのせいか、ナガセのうめき声が聞こえてくる。そうこうしているうちに、SAMはナガセの機体の間近まで接近する。くそっ、何かすることはないのか、何か!

「右だ、ナガセ!!」

彼女の機体と重なるように旋回した隊長機は、自分の機体をSAMの前にさらす。目標を変えたSAMは隊長のF-4Eに今度は接近し、そしてその主翼に命中した。

「隊長っ!!」

「バカ、涙声なんて出すんじゃねえよ」

速度を落とし、遮蔽物のない海面に隊長機は降下する。

「機体は所詮消耗品。なあに、ちょいとベイルアウトして水泳を楽しむだけさ。救援要請と俺の替えの機体の準備、任せたぜ。」

F-4Eのキャノピーが跳ね上がり、パートレット隊長のパラシュートが開く。そしてゆっくりと隊長の姿が海面へと着水する。余裕なもので、海面から手まで振っている。

「なあブービー、隊長のことだから泳いで基地まで戻ってきそうな気がしないか?」

「チョッパー、聞こえているぞ。おまえとブービー、俺が戻ったら遠泳5キロだ。覚悟しておけ。」

「た、隊長、自分は何も言ってません!」

突然、機内に警報が鳴り響く。

「ウォードック隊、聞こえるか。緊急事態が発生した。直ちに帰投し、再出撃に備えよ。繰り返す、直ちに帰投せよ」

無粋な声は、がまがえるの司令官殿の腰巾着士官だ。

「そんな!まだ救援ヘリが到着していません!せめてヘリの到着まで待って下さい!」

ナガセの声も必死だった。当たり前だ。敵の艦船が目の前にいる状況下、隊長を見捨てろというのか。

「緊急事態なのだ。隊長は救援隊に任せて急ぎ帰投せよ。いいな、これは命令だ!」

通信は一方的に切られてしまった。一体全体、うちの部隊の上は何を考えていやがるんだ。

「おい、ブービー、エッジ、チョッパー。通信は聞いた。どうやら面倒なことが起こっているらしい。急いで戻るんだ。俺のことなら気にするんじゃねえ。おまえらに気を使われたんじゃ、こっちのメンツ丸つぶれだ。さあ、行け!」

「……くっ、エッジ了解。隊長、必ず帰ってください。」

「だから、涙声になるんじゃねえよ。……照れるだろ。」

「隊長、さっさと片付けてきますからそのまま浮いていてくださいよ。」

「チョッパー、おまえの軽口を聞いていると飛んじまいそうだ。早く行っちまえ」

後ろ髪引かれるとはまさにこのことだった。仕方の無いこと、と割り切れればどんなに楽だったろう。俺はこの後、隊長から離れたことを思い切り後悔することになった。


 

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